聖路加国際大学についてUniversity Information

入学式・感謝礼拝 式辞(2019年4月2日)

学長 福井 次矢

 ご入学、おめでとうございます。

 例年、入学式の日は桜の満開とは微妙にずれることが多いのですが、今年はまさに桜が満開の本日、聖路加国際大学に入学される皆さん-看護学部へ130名、看護学研究科へ71名、公衆衛生大学院へ33名-、総勢234名の皆さんに心からお祝いを申し上げます。

 皆さん一人ひとりにとって人生の重大な局面である「学びの場の選択」において、本学を選んでいただいたことに感謝いたします。また、ご父兄の皆様には本学への入学をご支援いただき深く御礼申し上げます。

 学校法人聖路加国際大学は、米国バージニア州から1900年に来日されたルドルフ・ボーリング・トイスラ—先生が1901年2月に設立された聖路加病院に端を発します。看護の正式な形での教育が、1920年10月に病院内に設置された高等看護婦学校で開始されていることから、明年(2020年)秋には100周年を迎えることになります。この間、本学は看護の分野において、臨床実践だけでなく、研究、教育、行政、国際協力など多方面で活躍する多くの卒業生を輩出してまいりました。

 一方、公衆衛生学研究科はつい2年前の2017年に、わが国で5番目の公衆衛生分野の専門職大学院として設置されました。看護教育に遅れること97年、出来立ての大学院であります。

 本学はわが国における看護の発展に大きな役割を果たしてまいりました。ここではそのような過去の業績はさておき、最近の数年間、教育と研究の質を高いレベルに保つために取り組んでまいりました二つの点に触れたいと思います。一つは聖路加国際病院との連携を緊密なものにすること、もう一つは国際化の推進であります。聖路加国際病院との連携については、例えば、大学の教員に加えて、本学の修士課程で看護教育について深く学んだ病院の看護師がきめ細かく看護学生の実習の世話をする体制がとられていて、質の高い、看護学生の満足度の高い臨床実習の実現に繋がっています。また、看護や公衆衛生に関わる研究の遂行上、聖路加国際病院に蓄えられている膨大なデータは、非常に貴重な研究資源となっています。一方の国際化の推進については、看護学の分野では卒業までに全員が少なくとも一回は短期海外留学を経験できるよう奨学金の支給を含め積極的に支援していること、公衆衛生大学院では授業や実習をすべて英語で行っていることなどに反映されています。

 そのような特徴を踏まえて、本学の現在のわが国での立ち位置・目的として、私は、看護分野については「わが国の看護分野における優れた専門職業人(プロフェッショナル)・リーダーを育成すること」、公衆衛生分野については「医療と健康に関する集団科学 population science とグローバルな視点を身につけたプロフェッショナルを養成すること」と考えています。本日入学される皆さんには、両分野における本学の立ち位置・目的を十分理解された上で学習、研究に邁進されるようお願いいたします。

 今、「学習」と申し上げましたが、学習について、二点ほど申し上げます。最初に、学習の意味とその方法についてであります。学習-学ぶこと-とは、知らなかったことを知ること、できなかったことができるようになること、身に付いていなかった態度や習慣が身に付くこと、つまり知識、技術、態度・習慣という3つの側面で、自分自身に「価値ある変化」が起こることを意味しています。また、医療分野におけるあらゆる学問の最終目的は「病める人」に尽くすことでありますので、皆さんは、「病める人」に尽くすために、自分自身が価値ある変化を遂げようとしていることになります。

 学習の生理学的なメカニズムとしては、極論すると、脳神経細胞のさまざまな突起を伸ばして、他の脳神経細胞との新たな連結網(ネットワーク)を作ることを意味します。そこで皆さんに提案したいのは、脳神経細胞の新たな連結網(ネットワーク)を効率的に作り上げるためにはどうすればよいのか、自分自身の中で起こりつつある変化を客観的かつ冷静に眺めながら、学習と脳神経細胞との関係について世界中で行われている研究の成果を踏まえて、いろいろ工夫をしてみてはいかかでしょうか。運動すると記憶力が高まるとか、睡眠中にこそ脳神経細胞の突起の連結が活発に起こるとか、学習について興味深い医学研究が数多く行われてきています。そのような知見をも学びながら、自分自身を対象にして、効率的に学習成果が上がるよう、生活全般の調整をされることをお勧めいたします。

 もう一点は、皆さんが学ぶ学問領域についてであります。本学に在学中、皆さんには二つの学問領域をバランスよく学習していただきたいと願っています。一つは、皆さんがまさに学ぼうとしている看護学や疫学、統計学、医学など、科学的な思考過程がその中核を成している学問領域であります。真実を追求し、論理的な解決策を探る分野であり、正確に観察する能力と推理・推察によって論を進める・推論能力を身に付けることができます。

 二つ目は、哲学や文学、倫理学、心理学、人類学といった人文学的アプローチです。この中には、専門職業人(プロフェッショナル)としてのさまざまな発言や行動を規定するプロフェッショナリズム、道徳観なども含まれます。身に付けた科学的知識や技術を賢明かつ良心的に用いるため、また専門とする分野を超えて複数の分野・テーマを融合したり、それらの相互関係や学問全体の中での位置づけを考えたりする上で、人文学は必須の学問であります。

 英国のヴィクトリア朝の哲学者ジョン・ステュアート・ミルは、「知性と良心を心に植え付けられた人間は、自分自身の力で有能で賢明な専門職業人になる」と言っています。皆さんは、いつかは、人から教えてもらう時期を脱し、自分自身で能力を開発し成長しなくてはならなくなります。その時に必要となるのは、専門分野の知識のみではなく、人文学を含む幅広い領域の知識の全体・総体であります。そして何よりも、人文学の素養はさまざまな形で人生を豊かにするものであります。旺盛な好奇心を持ち続け、幅広い知識の吸収にチャレンジして下さい。
 
 本学での学びの日々が、真に充実していて、素晴らしい友人や指導者と出会い、振り返れば人生最高の日々であったと思ってもらえる、そのような貴重な人生の一コマとなりますことを祈念いたします。そして、そのようになりますよう、私たちは最大限の努力を惜しみません。どうぞ、健康に留意して、実りある勉学の日々を過ごしてください。

 ご父兄の皆様には、お嬢様、ご子息が価値ある変化を遂げ、専門職業人・プロフェッショナルに育つさまを見守っていただければ幸いでございます。

 以上をもちまして、私の式辞とさせていただきます。