WHOCCWHO Collaborating Center for Nursing Development in Primary Health Care

WHO News

看護 2020年11月号 第72巻 第13号

新型コロナウイルス流行下における子どもへの影響

新型コロナウイルス(以下:COVID-19)の世界的流行の中、国際連合は2020年4月に発表したPolicy Belief1)の中で、COVID-19のパンデミックとその対策が及ぼす社会経済状況の変化が子どもへ及ぼす影響について警鐘を鳴らし、各国政府へ子どもたちへの支援を求めた。

教育・貧困・虐待等、子どもたちを取り巻く危機

1989年に国連総会で採択された「児童の権利に関する条約」は、子どもを権利を持つ主体と位置づけ、生きる権利・育つ権利・守られる権利・参加する権利の実現を提唱した。COVID-19流行下においては、多くの子どもは幸いにも、COVID-19による重篤な症状から免れている。しかし、COVID-19流行による予防接種推奨の中断により、ポリオや麻疹など通常のワクチン接種が困難となったことから、子どもはほかの感染症の脅威にさらされている。またパンデミックにより、世界のほぼすべての子どもが学校に通えない状況が生じている。2020年9月現在、一部の学校では休校の解除や遠隔学習が開始されているが、すべての子どもが遠隔学習を利用できる環境にあるわけではない。電気が通っていない、あるいはインターネットサービスが低速・高価な国に住む子どもたちは教育を受ける権利が脅かされている。また、COVID-19流行に伴う社会経済状況の変化や家族の罹患による世帯収入の減少が生む貧困は、生活に不可欠な医療費や食費の削減を余儀なくし、休校によって給食を頼りにしていた子どもたちが必要な栄養を摂取できないことから、子どもの栄養不良・発育の阻害が懸念されている。さらには、ロックダウン実施国においては、家庭内暴力や虐待の被害者、その目撃者になる懸念までも生じている2)。
わが国においても、2020年3月に全国小中高の一斉休校要請が政府より出されたが、休校が解除されてきたことから、子どもの生活の場である学校における感染予防対策の検討が重ねられている。そうでなくとも、未曾有の感染症流行は、子どもとその家族にさまざまな不安を与えた上、長期的な外出自粛に伴い子どもの心身へ影響を及ぼした。その上、感染リスクの恐れによる医療機関受診や乳幼児のワクチン接種を控える傾向、貧困世帯の家計のひっぱく、虐待や家庭内暴力、10代の予期せぬ妊娠に関する相談の増加など、日本の子どもたちも、世界各国と同様に被害を被っている。

入院児と、そのきょうだい支援の取り組み

COVID-19流行によって、さまざまな医療機関が家族の面会や外部からの人の出入りを制限したことで、入院児だけでなく、そのきょうだいも、我慢を余儀なくされた。本稿の締めくくりに、WHO 看護開発協力センターとしての、People-Centered Careの取り組みの一貫で聖路加国際大学小児看護学教室と聖路加国際病院小児病棟が協働した入院児のきょうだいへの支援の一例を紹介したい。COVID-19流行下でどのようにきょうだい支援を続けていくことができるか協議の上、一斉休校が開始された2020年4月から6月の週2回、午前中の約30分、きょうだいたちをZoom®でつなぐ「ひみつかいぎ」を開催した。これは、きょうだいたちが主役になれる居場所づくり、休校に対する生活習慣の維持、親の休息の確保を主目的として実施された。計35名のきょうだいが参加し、ゲームや遊びながら学べるプログラム等を楽しみ、参加した子どもの保護者からは、「毎回楽しみにしている」「満足しているからかお手伝いもしてくれて優しくなった」「生活にメリハリがついて自ら宿題をしている」「きょうだい同士でわかり合えることがあって楽しいみたい」などの感想が寄せられた。
今後、COVID-19流行下による中長期的な影響が子どもの心身へ現れるものと予測される。COVID-19の流行抑制は社会にとって重要な課題であるが、同時に子どもたちが健やかに発育していけるよう、個人、組織や国ができることに取り組んでいくことが今後の重要課題である。
(文責:福冨 理佳)

引用文献(2020年9月13日確認) 
1)United Nation.Policy Brief:The Impact of COVID-19 on children,2020.(https://unsdg.un.org/sites/default/files/2020-04/160420_Covid_Children_Policy_Brief.pdf)
2)UNICEF. LIVES UPENDED How COVID-19 threatens the futures of 600 million South Asian children,2020.(https://www.unicef.org/rosa/media/7946/file/UNICEF%20Upended%20Lives%20Report%20-%20June%202020.pdf%20.pdf)

看護 2020年7月号 第72巻 第9号

フィジーでアスベスト関連疾患撲滅に向けた 教育プログラムを実施

 2019年度は、WHO、ILO(国際労働機関)、UNEP(国際連合環境計画)などの国連機関と、アスベスト関連疾患研究所(オーストラリア)が中心となって、開発途上国対象の「アスベスト関連疾患撲滅のための教育プログラム」をフィリピンとフィジーで実施した。筆者は、看護ケア担当で参加し、フィリピンでのプログラムについては、本欄(2019年11月号)で報告した。今回はフィジーでのプログラムを報告する。

フィジーでアスベスト関連疾患対策を行う難しさ

 人口90万人弱で、観光を主産業とするフィジーは、日本と同じくWPROに属し、南太平洋の国々のリーダー的役割を果たしている。平均寿命は男性67.1歳、女性73.1歳で、結核などの感染症が制圧途上のところへきて、生活習慣病対策の需要が目下急増中である。公的医療機関での医療サービスは無料だが、医療従事者不足が問題となっている上、先進医療機器や専門医が少なく、受けられる医療サービスが限られる。このような状況のフィジーで、アスベスト関連疾患対策を行うのは容易ではない。
 フィジーにおいても悪性疾患は増加傾向にあり、男性では肝臓がんや前立腺がん、女性では子宮頸がんや乳がんが増加し、13歳の女児を対象にHPVワクチン接種が始まったところである。しかし、乳がんや子宮頸がんの無料スクリーニングは行われておらず、悪性疾患と診断されても、使用できる抗がん剤が限られている上、緩和ケア導入も進んでいない。主要な悪性疾患に対してさえ予防、診断、治療が十分に行われていない国で、見たこともない中皮腫やアスベスト性肺がん(診断方法がないので公式患者は0人である)の話をしても、興味を持ってもらうのは難しい。

プログラム参加者に疾患対策への興味をつなぐ

WHOフィジーが、保健省や国立病院から、政務官、医師、看護師、検査技師などを招待してプログラムを行ったのだが、希少がんなどの対策をする余裕はないというのが本音で、アスベストに対する興味も薄かった。しかし、すでに病院や学校、水道管に大量のアスベストが見つかっており、アスベスト関連疾患患者が現れるのは時間の問題である。そこで、呼吸困難を抱えるアスベスト性肺がん患者のビデオメッセージを紹介した。患者自身による語りには力強い説得力があり、国境を越えて医療従事者の共感を促すことができる。それでも「感染症や生活習慣病対策で手一杯。アスベストの病気などに取り組む余裕がない」と口をそろえるプログラム参加者には「感染症や生活習慣病対策で手一杯な上に、アスベスト関連の病気にも取り組まなくてはならなくなるから一緒に対策を考えませんか? そのときが来たら呼んでください」というお願いを、「人も金も物もない」という参加者には「アスベスト関連疾患の看護には高額なケアは必要ない上、他の悪性疾患にも汎用できます」というメッセージを伝えてきた。
 「自分たちにアスベストの病気のケアなんてできるわけがない」というかたくなな意見があったので、患者さんが息苦しくなったらどうするかというロールプレイを参加者にしてみてもらったところ、患者役の医師と援助者役の看護師は感情豊かに演じ、聴衆からは「背中をさすれ」「優しい言葉をかけろ」とさまざまな助言が飛び交った。「同じことをアスベストで苦しむ患者さんにしてあげたら、喜ぶと思います」と話すと、やっと興味を持ってもらえた。いつかフィジーの看護師とアスベスト関連疾患患者のケアを一緒にする機会があるよう願っている。

(文責:長松 康子)