WHOCCWHO Collaborating Center for Nursing Development in Primary Health Care

WHO News

看護 2023年7月号 第75巻 第9号

タイ国・バンコクのケア施設への支援

高齢化が加速するタイ国

 世界保健機関(WHO)は、世界のあらゆる国において過去にないスピードで高齢化が進んでいることから、
①高齢者に優しい環境
②加齢に対する偏見の撲滅
③高齢者が必要とするケアの統合や長期的ケア整備
などを奨励している1)。
 タイ国は世界で最も高齢化が加速する国の1つである2)。タイ国で急増する脳血管障害においては、救命を目的とする治療を終えると患者は退院し、家族のケアの下で自宅療養することが多い。専門的なリハビリとケアを望む富裕層のタイ人の中には、急性期病院での治療後にケア施設に転院する者もいる。
 筆者は、リハビリに関する経験豊富な日本の医療機関が、タイ国現地のケア施設と提携して、リハビリとケアを提供する施設を訪れ、ケアの向上に関する提言を行ったので報告する。

携帯電話機能による支援とベッドサイドチェックリストの開発

 タイ国の首都バンコクにあるAケア施設は、30床を有し、作業療法士5人、理学療法士12人、理学療法助手7人、介護士13人、看護師1人が勤務している。日本の医療機関が業務提携を行い、日本人理学療法士と日本人看護師が、質の高いリハビリとケアの提供のためにスーパーバイズを行っている。
 この施設に入所している患者の多くは、脳血管障害の既往を持ち、日常生活への支援が必要で、急性期病院入院中に褥瘡をつくった患者も少なくない。褥瘡のケアとカテーテルからの感染予防がケア上の重要課題であったが、介護士は疾病予防に関する知識がほとんどなく、たった1人の看護師は、感染や急変への対応に追われていた。スーパーバイズを担当する現地在住の日本人看護師は、介護士に褥瘡のケアや感染を予防するケアの仕方を細かく指導し、携帯電話機能を使って、介護士、看護師と密に連絡を取ることで、重症化を予防することに成功していた。
 筆者は、Aケア施設の患者、看護師、介護士、理学療法士、作業療法士に聞き取りを行うとともに、スタッフのケアを観察した結果、介護士がベッドサイドにおける安全確認を実施することで、感染を予防し、患者のクオリティ・オブ・ライフを向上できると考えた。そこで、Aケア施設のスタッフと協働でベッドサイドチェックリストを開発した。
 チェックリストは介護士だけでなく、理学療法士や作業療法士にも共有されている。スタッフ全員が患者の安全と安楽を確認する体制を促進することで、患者の満足度の向上だけでなく、それぞれのサービスの円滑な提供にも資するものと期待される。
(文責:長松 康子)

参考文献

  1. WHO:WHOå’s work on the UN decade of healthy aging(2021-2023).
  2. Economic research institute for ASEAN and East Asia(ERIA):Population aging in Thailand, 2021.

看護 2023年5月号 第75巻 第6号

インドネシア教員によるTeam Based Learningを用いた授業の実装へ

看護・助産学生への授業を通して

 筆者は、日本学術振興会・研究拠点形成事業、アジア・アフリカ学術基盤形成型の事業として、「医療安全を重視した母子保健人材育成グローバルアプローチ研究ネットワーク拡大」(代表:堀内成子)のテーマの中で、「インドネシアの医療系教員への Team Based Learningの導入」に向けて取り組んでいる。
 Team Based Learning (以下:TBL)とは「チーム基盤型学習法」であり、予習、個人テスト、少人数チームでのテストを行い、その内容について教員が適宜フィードバックしていく教授方法である(詳細は本連載2022年1月号、9月号参照)。
 また、本研究はWHO協力センター(WHOCC:WHO Collaborating Centers)の委託条件の1つとして行っており、2022年度はインドネシアにてTBLの実装を行っているため、その概要を紹介する。

〈STEP1〉授業の準備と授業展開案の作成
 聖路加国際大学の博士課程を修了し、現在、特任研究員であるUlfa Yunifit氏が、インドネシアの教員に対してTBLの授業を展開するため、その準備として、2022年11月にインドネシアの看護大学2校に対してセミナーを行った。セミナーは対面形式の3時間程度のもので、大学はHealth Polytechnic KupanとAndalas Universityからそれぞれ教員8名の参加があった。
 セミナー後には、1〜2週間かけて、それぞれの教員がTBLの流れ(iRAT★1/tRAT★2/応用編)に沿った授業内容について作成した。作成した授業展開案については、授業前までに研究者にて確認した。

〈STEP2〉学生への授業展開
 次に、実際に看護・助産学生に対して、それぞれの教員が作成したTBLの授業を行った。2つの大学から、それぞれ47名と74名の学生が参加した。授業については、研究者が立ち会い、TBLの授業がどのように展開されていたのかを確認した。

〈STEP3〉学生と教員への3カ月後のフォローアップ
 学生に対しては、知識の定着度や主体的に学習ができているかについて評価を行った。
 一方、教員に対しては、TBLの授業を継続して行う意欲があるかや、授業展開に当たっての障壁があるかについて評価を行った。

 現在、TBLの授業を実装している途中の段階であるが、研究者の感想として、Yunifit氏は下記の項目を挙げている。

  • インドネシアでTBLを教授法の1つとして適応することが可能であり、今後、教授法として採用する予定である
  • 教員だけでなく、学生においてもTBLの受け入れ状態はよい
  • 少人数でも大人数のグループでも、授業目標に合わせて展開が可能である
  • 事前学習をし、個人とグループにてテストをし、応用編に進んでいくため、基礎知識から応用編まで学生は学ぶことができている

★1 individual Readiness Assurance Test(個人テスト) ★2 team Readiness Assurance Test(少人数チームでのテスト)