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2021年度学位記授与 看護学研究科博士後期課程修了生代表 答礼のことば(2022年3月10日)

看護学研究科博士後期課程修了生代表 平田 美佳

 2020年初頭に始まったCOVID-19のパンデミックは、今もなおオミクロン株が世界中で猛威を振るい、加えてウクライナへのロシアの侵攻の様子が連日報じられるなど、私たちの心は未だ穏やかではいられないなかにあります。そのような非常事態にありながら、本日私たちは無事に修了の日を迎え、学位授与式を催していただきましたことを、修了生を代表して心より感謝申し上げます。

 私は、ちょうど30年前の3月に、伝統の真っ青な学生ユニホームに黒いガウンをまとい、聖路加礼拝堂で本学看護学部の卒業式を迎えました。神様の前で「看護師として人々の健康のためにできることを全うする」という未来への決意を誓い臨床の場に巣立ちました。当時の看護教育の先駆者であった優秀な先生方から受けた学部4年間での学びは、私の看護の基盤として自分の中に深く刻み込まれていたことを、経験を重ねるごとに感じさせられてきました。
 そして、2022年の3月、30年の時を経て再び本学から博士の学位を授与されることとなりました。大学の名称こそ聖路加看護大学から聖路加国際大学に変わりましたが、キリスト教の精神に基づいたわが国の看護学の歴史そのものともいえるその教育は、30年前と変わらず連綿と受け継がれ、博士課程では看護研究者に必要な問いの探求方法と関心領域の知の集積について多くを学びました。私はこの4年間、熱心な先生方から手厚い指導をうけながら、20年余り心の中で温めてきた“いのちに限りがある子どもたちとその家族がより豊かに生きる看護”を探求する研究に没頭することができました。そして、再び私の原点である母校に戻り研究活動ができたことは、これからの自分の看護師としてのあり方を考えるうえで大きな影響を与えました。

 博士課程2年目の終わりに世界的なCOVID-19のパンデミックが起こり、感染対策のために社会全体が人と人との接触を避けなければならないという苦境に立たされました。大学院生の研究活動にも多くの制限が加わり、私自身も審査を終えた研究計画書の修正を強いられるという苦しい経験をしました。しかし、苦境に立たされることで自分にとって大切なものがより鮮明に見えたり、本来その人のもつ力が強く発現してきたりすることで、私たち大学院生は、逆境のなかから研究の問いの本質に迫り、新しい方法を創造していくことを学ぶことになりました。この逆境のさなかでしか見えないもの、逆境のなかだからこそ発現できる力は、まさに私の博士論文研究の対象となった子どもを失った母親たちの語りから私が教えられたことであり、「子どもがんの発病から死を迎えるまで子どもの病と闘った母親の生きる力の軌跡」の理論モデルにも示されました。
 コロナ禍の医療現場では、患者は大切な人とも会えず孤独に病と闘い、家族の看とりさえも叶わないという多くの苦しみが引き起こされています。このような思いがけない出来事に直面したからこそ、人とのつながりや関わりあいというものが、人を育て、人の生活を豊かにし、人に生きる力を与えることを、私たちは強く再認識することとなりました。そして、そこに新しい看護の発想と創出が求められていることを感じました。そういう意味で、COVID-19パンデミックは、人に寄り添うことを責務とする私たち看護師に何か意味のあることを伝えようとしているのではないかと感じています。

 私たちは本日を新たなスタートとして、多くの困難に立ち向かう中から得た強さと忍耐力を糧にし、常に人々の健康や幸福のために、新しい発想をもち変革をおこすことに貪欲になり、それぞれが看護実践者、研究者、教育者として精進してまいりたいと存じます。
 最後に、今日までご指導いただいた諸先生方、職員の皆様、長い大学院生活を温かく見守ってくれた家族、そしてともに学び、新しい発見を喜び、いつも研究の厳しさや苦しさをわかちあってきた大学院の同級生と先輩後輩たちに心より御礼申し上げます。皆様のご健勝とご活躍、そして聖路加国際大学の益々の発展を願い、答礼の挨拶といたします。ありがとうございました。