博士後期課程DNPコース修了生インタビュー
三谷千代子さん
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 看護部次長(教育担当) 【2020年3月修了】
① DNPコースへの入学のきっかけはなんですか?
まず看護管理に興味を持ったきっかけは、師長として病棟管理をする中で、看護師が成長すると看護が変わり、患者さんが変わっていく経験をしたことでした。この「人が変われば看護が変わる」という感動から、人材育成に興味を持ちました。
管理者として病棟における看護師の成長を考えてみると、師長としての私の関わりはもちろん、看護師同士が互いに支援しあって成長につながっているのではないかと気づきました。しかしその支援は日常の中に埋もれており、重要でありながらその構造が見えていないため、管理者として意図的に介入することができず、それの問いを解決したいと考えました。そこで修士論文では「中堅看護師の自律性は誰からのどのような支援で成長するのか」ということをテーマに取り組みました。
これによって臨床現場で行われている看護師同士の支援の構造を一部可視化できました。しかし一方で効果的な支援が分かり、現象を明らかにした研究だけでは、現場の変化、組織的な変革にはつながらないことにもどかしさを感じました。
研究されたものを活用して現場の変革につなげるためにはどうしたらいいか、進学も含めて看護管理の教授であられた吉田千文先生にご相談した折に、DNPコースを勧めていただき、まさにやりたいことはこれだと思い入学することにしました。
② 入学してみていかがでしたでしょうか。
一期生でしたので道標がなく、どのようしてプロジェクトをまとめていけばいいのか手探りでもありましたが、その分同級生と意見を交わすことが多くとても充実していました。それぞれのフィールドでの問題を解決したいという熱い思いを持っており、その姿勢に刺激を受けながら学べたことは励みにもなり視野が拡がる有意義な時間でした。
印象的だったのは、ノースカロライナ大学のMark Toles先生にImplementation Researchを学んだことでした。EBIをいかに戦略的に実装し成果を出すかという考え方は、まさに実践に活用できる手法だと感じました。この授業によってDNPプロジェクトの全体像が見えたとともに、様々な先生方が惜しみなく支援していただいたことで進めていくことができました。
③ DNPプロジェクト研究ではどのようなことをしましたか?
「看護師長の対人支援力向上のためのプログラム」の実装と評価に取り組みました。看護師が様々な困難や抱えている問題を解決できずにいることで、成長を妨げ、ひいては心身の不調につながっているのではないかという問題について考えました。修士論文で、看護師長の配下のスタッフに対する内省的な支援が自律性を高めることが示唆されていたこと、看護師長の多くが対人支援を苦手と感じていたこから、看護師長の支援力を高めるプロジェクトにしようと考えました。
内省的な支援の手法として「Helping Skill」という手法を実装戦略として選択し、実装戦略の評価は「対人関係理解」のコンピテンシーや対人支援に対する自信や共感性を測定しました。介入ごとにアンケートをとり、より適した介入になるようQIサイクルを回して修正を繰り返しながらプロジェクトを進めていきました。短期間でもあったためコンピテンシーのレベルの向上は見られませんでしたが、対人支援に対して苦手意識を持っていた看護師長の自信は向上していました。このことから継続的に介入していくことで、対人支援力が向上するのではないかということが示唆されました。
④ DNPプロジェクト研究をしてみて、どのような変化がありましたか?
今までは成果ばかりに注目しがちでしたが、分析とプロセスをきちんと見直すようになったと思います。EBIをただ適応させるのではなく、どのように戦略的に実装していくかを考え、情報を集め分析しようと考えるようになりました。成果につなげるためには起こっている現象はもちろん、その問題に関わるステークホルダーや介入対象者など広く多角的に分析すること、そして実装化においては対象者が受け入れやすいものか、実行可能性はあるか、など成果につながる実装戦略かという点にも注目するようになりました。
⑤ DNPコース修了後、看護実践にどのように活かされたか、お聞かせください。
現在、教育担当次長として主任に対して、対人支援を含めた管理についてのプログラムを行っています。内容は「Helping Skill」に類似した対人支援に関する知識の提供、そして「対人関係理解」のコンピテンシーを使って実践した内容をグループワークで振り返る5か月間のプログラムです。看護部長と私がファシリテータとして参加し具体的にスーパーバイズや承認をして自信につながるよう意識して取り組んでいます。今後は役職だけでなく、中堅看護師から管理能力を育成する体系的なプログラムを開発したいと考えています。
⑥ DNPコースへ入学してよかったですか?
はい。まず一緒に考え、視野の広がる助言をいただける先生方と出会えたことは看護師人生の中でとても貴重で宝物だと思います。また同級生も多かったので、いろいろな看護師経験を経て集まった同級生との意見交換によって、柔軟な考えを持てるようになったのでとても感謝しています。
⑦ これからDNPコースに受験したい方へのメッセージをお聞かせください。
まだDNPがまだよくわからないと感じている人も多いと思いますが、実践にいる人はDNPプロジェクト研究を知ってほしいと思います。問題解決のための戦略的な介入をきちんと評価し、この手法であれば成果がでるという仮説を積み上げ立証していくことが医療現場の質を向上させると信じています。日々の感覚的に行っていることがとても貴重な科学であることに気づくと思います。実践家の人は是非入学してDNPプロジェクト研究に取り組んでみてください。
佐藤直子さん
訪問看護ステーション勤務 在宅看護専門看護師
① DNPコースへの入学のきっかけはなんですか?
研究科長や教員の皆様から、CNSの人がより力を発揮できるように博士課程で自立して実装研究するコースができるのでそこで学んでみないか、というお誘いがあり、CNSのアドバンスコースとして用意していただいたこともあって入学をしようと思いました。
② 入学してみていかがでしたでしょうか。
仕事と両立しながら就学するということがとても大変でしたが、非常に実践的な内容のコースだったと思います。DNPコースは、PhDコースとは異なって実践重視ということもあり、CNSとしてのリーダーシップ、イノベーション・チェンジエージェンシーの知識を修士課程に加えて学ぶことができました。修士課程では、リーダーシップやチェンジエージェンシーとして動くことについて自主的に学習してはいたものの、CNSになり時間が経って、よりニーズが高まってきたところに、このDNPコースでの学習がさらに追加されたことで、そういった力が強くなったと思います。
CNSは特殊な立場で研究やエビデンスを作ることに参加をしており、例えばガイドラインの作成等ですが、その時に必要なことを例えばシステマティックレビューなど、厳選して授業に組み込んでくれました。そういった環境で学ぶことができたことは今の仕事に幅広く役立っていると思います。
③ DNPプロジェクト研究ではどのようなことをしましたか?
私は地域の訪問看護師を育成する看護師の教育プログラムを作って、そのプログラムを現場に実装するという研究を行いました。
④ DNPプロジェクト研究をしてみて、どのような変化がありましたか?また、DNPコース修了後、看護実践にどのように活かされたか、お聞かせください。
DNPコースのプロジェクト研究の特徴として、広く一般化するのではなく、その現場への実装を目指したものですので、「その現場の状況をよく知ること」が非常に大事になります。
その現場をよく知らない状態のまま正しいことを押し付けても現状は改善しません。その現場の人がどう考えているかを含めた様々なことを知ることによって、改善するポイントが見えてきます。CNSとして現場をよく知ることが実装を助けるということは感覚的にはわかっていても実践することとは難しく感じていたので、DNPコースでは研究ベースで実装について深く学ぶことができるというのは驚きでした。現場を本当によく知る、人を一人一人知っていく、ということで物事や問題の解決がしやすくなりました。
このコースを学んだことで私自身の心構えや姿勢が変わっただけですが、それで周囲も変わってきました。正しいことを正しいと押し付けても全員がやってくれるわけでもなく、どうすればこの現場で正しいことがうまく行われるか、ということを突き詰めていくプロジェクトなので、その仕組みを理解して実行することができるようになった、ということは大きな変化だったと思います。
⑤ DNPコースへ入学してよかったですか?
修士とは違ってDNPはDNPというひとつのクラスで学んでいくため、領域を問わず、いろんな現場で、現場を変えようとしている人たちと一緒に切磋琢磨しながらプロジェクトを磨いていく過程というのはなかなか他では経験できない体験で、とても刺激的でした。
修士課程は人数が多く領域で偏ってしまう傾向がありますが、DNPは少人数でとても濃いメンバーが集まるので、プロジェクトもメンバー同士の刺激があったからこそ磨けたのだと感じています。又、素晴らしい教員陣の元で、すごくリッチな時間を過ごさせてもらったと思います。
⑥ これからDNPコースに受験したい方へのメッセージをお聞かせください。
DNPは日本ではまだ駆け出したばかりなので、フロンティアとして苦労もありますし、日本のDNPがどのような形で収まるのか未知数です。未知数だから楽しくも怖いところがあるので、その点は覚悟が必要です。アメリカのDNPはCNSというよりNPのために作られているので、おそらく日本での意義は変わってくると思いますし、日本のDNPを作っていかなければならないと思います。なので、それを「やってろう!」と思いながらポジティブに、楽しんで臨んでほしいです。
DNPコースは端的にいえばエビデンスを作るのではなく、既にわかっているエビデンスをどうやったら現場に活かして患者さんやスタッフ、周りの人たちを幸せにしていくか、ということを追求するコースなので、直接現場を良くしていきたい、という人にはとても良いコースだと思います。まだまだDNPは開発段階のものなので、フロンティアとして「やっていこう!」という気持ちがある方は是非チャレンジしていただきたいと思います。