聖路加国際病院 副院長・看護部長|1983年看護学部卒業/1999年大学院修士課程修了
私は聖路加国際病院の看護部長として、看護部全体の責任を持っています。病院内では様々な部署で多くの看護師が仕事をしています。患者さんに納得した医療を受けてもらえるように、また希望する療養生活ができるように努力を続けています。病院内で勤務する看護師一人ひとりが看護の魅力とやりがいを感じながら、自分の夢をかなえていけるようにサポートするのが看護部長としての役割でもあります。
私も大学に入学したての頃は、看護学について学びはじめ基本的な知識を積み重ねていましたが、看護の本質についてはよく理解していませんでした。私が本当に看護と出会うのは大学3年生後期に当院での臨床実習で、ある患者さんを受けもったときのことです。その患者さんは心臓疾患があり、長い療養生活を余儀なくされていました。当時私を担当していた教員の先生は私に「この患者さんは持続点滴による心臓疾患の治療をしているが、退院して自宅で治療を続けられる可能性は本当にないと思いますか?」と尋ねられ、学生の私に自宅療養の可能性について、病棟の看護師だけでなく担当医に意見を聞くように促されたのです。私はその時初めて、その患者さんにとっての入院生活の意味と人生の重みについて考えました。何が患者さんと家族にとって重要で価値があることなのかが治療や療養を決める鍵となるのです。それからの私は何事もそれまで以上に真剣に取り組みました。
病院での臨床実習は困難なこともありましたが、患者さんの希望を尊重する看護ケアをおこなうチームの一員になりたいと思い、当院の看護師になりました。病院との連携による大学時代の経験は、看護を深めるきっかけとなり専門職としての学びを続けていく力になりました。看護は一人で実践するものでなく、チームで取り組みます。常に質の高い看護を患者さんに提供するためには看護師の力を向上させるシステムや教育が必要です。入職して5年目に管理職になってからは看護管理を学び、看護部の組織づくりをしたいと考えるようになりました。それから数年後に結婚し出産、自分自身のキャリアアップをめざし本学の大学院博士課程前期に入学し看護管理学を専攻しました。
その後は、多くの看護師の実践を支えていく立場になっています。
私の同級生は病院の管理職だけでなく行政や大学教員など様々な仕事をしています。仕事や学会などで出会うと、社会のなかでは別の役割を持ちながらも看護については同じ価値観を共有していることを実感します。それは大学と病院が連携した教育体制のなかで育まれる「自ら学ぶ」姿勢と「看護の質を高める」という志が、卒業生の原点になっているからではないでしょうか。