卒業生 松石雄二朗

松石雄二朗

チーム医療の共通言語である基礎医学をもっと深く学びたい

筑波大学附属病院PICU・筑波大学大学院人間総合科学研究科フロンティア医科学専攻 | 2012年看護学部卒業

●大学時代のこと
私は海のそばに住んでいましたので高校時代からライブセービングをしていました。そこで救命活動に関心が生まれ、医療系の仕事に就きたいと考えました。さらに“救命だけでなく、病気や事故の予防から治療後まで幅広く携わりたい”と思い、看護師を志すようになりました。

大学の授業を受けるのは苦手なほうでしたので、授業を休んで同級生の男子学生3人でサッカーや野球やバドミントンをしていたこともありました。私たち3人が大学前の芝生を一番活用していました。そんな中でも“最低限学ぶべきこと”はきちんとやっていたと思います。そういう要領の良さは身に付いたと思います。同級生の2人は集中治療室や血液内科の病院で看護師を続けています。

“がっつり”アルバイトもしました。居酒屋のアルバイトをしていたのですが、平日の授業が終わった後からアルバイトを始め、朝の3時の閉店まで働き、そこから明け方の6時頃まで店長とお酒を飲み、アルバイト先の床の上で眠ったこともありました。アルバイトは4年間続けました。

看護学部1年のときの「形態機能学」という授業と4年のときの「急性期看護実習」がとても面白く印象に残っている授業です。大久保先生の「形態機能学」では臓器実習があるのですが、今でもお手伝いをさせていただいています。また、卯野木先生の急性期看護の授業や、関西弁と説得力のある語り口が魅力の宇都宮先生の「急性期看護実習」では、臨床現場の雰囲気が学生にも目に浮かぶような授業を受けることができ、その後に実習を受けることができました。

本当にあっという間の4年間でした。授業以外では菊田先生や仲間との課外活動の時間も良い経験になりました。「コテ会」という男女や先輩後輩に拘わらず集まった仲間とキャンプを開催したり、辛いことがあったときには励まし合いました。今でも仲間との付き合いは続いていますが、外国で農業に従事しながら外国の看護師免許取得を目指して勉強している先輩もいます。聖路加は真面目な人が多いのですが、大学生のうちはもっと馬鹿なことをたくさんやってもいいんだと私は思います。

●集中治療室で働く看護師

聖路加国際病院でも筑波大学附属病院でも集中治療室で働いていました。集中治療室は手術を終えた患者さんの状態が落ち着くまで過ごす病棟です。よくドラマでも出てきますね。人工呼吸器をつけていたり意識のない重篤な患者さんもおられます。脳卒中や心筋梗塞の患者さん、心臓の手術をした後の赤ちゃんなども看ます。

医師は病気を中心にカバーしますが、看護師は患者さんの一番近くにずっと張り付きます。患者さんの状態の変化を看護師が見つけないといけないのですが、逆にずっと張り付いているため変化に気づきにくいというジレンマもあります。看護師には患者さんの変化に気づくことのできる知識や技術が求められます。集中治療室での看護師は様々な仕事をします。患者さんの点滴を替えたり、髪を洗ったり、歯を磨いたりします。体をふく際も全身を観察し変化がないか注意深く観察します。肺に良いように体位を変えるなど寝たままで行うリハビリテーションのお手伝いもします。おしもを扱う際も、患者さんの栄養状態や感染症にかかっていないかを観察します。様々な観察を基に、正常と異常を見極めて、それらの原因を考えます。もし異常を見つけたり“あれ、少しおかしいな”と思ったらすぐに調べたり、医師と話し合います。

●大学院で学ぶ

私は現在、働きながら大学院の修士課程で学んでいます。集中治療などの看護でのオーソドックスなステップアップは認定看護師や専門看護師になることだと思いますが、私は違う力を身に付けたいと思いました。それは“看護ではわからないものをわかる”という能力です。集中治療のチーム医療の現場では多くの職種でチームカンファレンスを行います。そこで、基礎医学や細胞レベルの話になると医師や薬剤師との会話に看護師の私はついていけませんでした。また、ICUは患者さんの精神面ではなく身体面の問題をとても多く扱う病棟・看護領域でもありますので、今患者さんの身体はどのような状態にあるのか、ということをきちんと把握できるような看護師になりたい、もちろん基礎看護や解剖学は看護でも学ぶのですが、チーム医療の共通言語である基礎医学をもっと深く学びたいと思うようになり、医学系の大学院に進学しました。

大学院では授業を受けるほかに研究にも取り組んでいます。一言で言いますと、看護師が患者さんに行うケアを動物に実験してみてその影響を調べるという研究です。例えばICUでは医療機器がたくさん使われるのですがその機器が発するサイレン音などの騒音が問題になってきています。騒音が患者さんの身体の中の細胞や物質に与える影響を調べれば何かの役に立つのではないかと思います。ラットに騒音を聞かせて脳の中のストレス物質や行動を調べています。また別の研究では、自分で痰を喉の外に出せない患者さんから痰を取るケアを実施したとき、肺の炎症の度合いがどうなっているかを調べる必要があると思いました。看護師が行ったケアの結果、患者さんの痛みはどうなったか、患者さんがどう思ったか、といった患者さんの精神面に関する研究はとても多いのですが、看護師のケアが患者さんの身体の中であるいは身体にどう影響しているのかといった身体面に関する研究は日本の看護学ではまだまだ少ないと思います。

今学んでいる大学院には様々な学生がおり、人種も多様です。ユーフラテス川流域の感染症を研究していたり、インドネシアの都市の交通事故を調べていたり、集中治療室と一般病棟との違いを研究している学生などもいます。私もこのまま医科学修士を取得し博士後期課程に進もうと今は考えています。最近は公衆衛生にも興味が湧いてきました。これからも看護の視点でどんどん突き進んでいきたいと思っていますが、そこにマクロ的な公衆衛生の視点も自分に取り込むことができたらいいなと考えるようになりました。これからも社会に看護の多様性が益々増えていくと良いと思っています。


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