入学について

2018年度専門職学位課程修了生 谷川 朋幸さん

入学前:聖路加国際病院 臨床医
修了後:株式会社CureApp 取締役

「大学院で学び、小さなチャレンジをする余裕を持つことが、思いがけない出会いやセレンディピティを生むかもしれません」

 公衆衛生学、特にグローバルヘルスとテクノロジーを用いたリソース不足の地域の健康水準の是正に関心があり、当初は欧米の公衆衛生大学院を志望していました。しかし聖路加公衆衛生大学院は、欧米と同等の教育を英語で受けられると知り、また日本国内で臨床医として勤務を続けながら学業と両立できることに魅力に感じ、進学を決意しました。
現在は株式会社CureAppという治療用医療機器プログラム(SaMD, Software as a Medical Device)を開発する企業で、取締役(Chief Medical Officer) として、臨床試験のデザイン、規制当局との折衝、保険適用を通じた社会実装、学術研究などを所管する役員として従事しています。今は「ソフトウェアで治療を再創造する」という組織のミッションの実現に向けて、困難はありますがしっかりと新しい治療モダリティである、治療用医療機器プログラム、SaMDが社会に根付くよう努力しています。
ある意味在学中に学んだすべてのことが、現在の業務に役立っているように思います。臨床疫学や生物統計学は、自分達が開発した医療機器プログラムの有効性を証明する上で必須の視点です。医療政策管理学で学んだ日本の医療制度、医療保険制度の歴史、医療経済学で学んだ内容は、現在の業務で治療用医療機器プログラムの薬事業務や保険適用を考える上で、その医療機器プログラムが社会的に有用であり、貴重な医療財政を用いても社会に導入すべきであると自信を持つことができます。環境医学や医療情報学は、さまざまな規制が存在する背景と私たちの製品がどのように位置づけられるかの理解を促進してくれます。SPHでの学びなくして、今の広い業務内容をこなせているとは到底思えませんので、大変感謝しております。
 
◇入学を検討される方へのアドバイス
 聖路加SPHに入る前は、日々の臨床業務に忙殺され、今考えると大きな目標を見失っていたように思います。大学院に入学し、公衆衛生学の体系的な学びを得て、また広い視野をもって情報収集する中で、運と縁に恵まれ、次のキャリアに踏み出すことができました。そういう意味で、この大学院で学ぶ期間は、保健領域でキャリアを形成している方にさまざまな学問的興味を満たす機会を与えてくれますし、少し立ち止まって自分の将来の目標や、本当に達成したいことを見つめ直す機会にもなると思います。キャリアの転換点の多くが偶然の出会いによってもたらされているそうです。明確にやりたいことが定まっているわけではない、でも臨床以外で何かやってみたい、それぐらいの漠然とした動機でも構わないと思います。一度腰を据えて大学院で学ぶ機会を創り、小さなチャレンジをする余裕を持つことが、思いがけない出会いやセレンディピティを生むかもしれません。そういうときめきや驚きが生まれる余白のある人生の方が、何となく豊かだなと感じられるような方にとっては、公衆衛生大学院はとてもよい場所だと思います。

2022年7月