WHOCCWHO Collaborating Center for Nursing Development in Primary Health Care

WHO News

看護 2022年3月号 第74巻 第3号

帝王切開後のSkin to Skin Contactの効果

出生直後の新生児が、母親の胸の上で肌と肌の触れ合いをするSkin to Skin Contact(以下:SSC)★は、新生児の子宮外環境への適応を助け(呼吸循環・体温・血糖値の安定)、母乳育児を促進するなどの効果をもたらすことから、特に新生児死亡率が高い国における標準ケア化が推奨されている1)。しかしながら近年では、世界各国において帝王切開率が上昇傾向にあり、術後の処置や観察のために母子が分離され、SSCの実践が妨げられている現状が報告されている2)。
2014年よりWHO西太平洋地域事務局は、新生児死亡率が高い国々における帝王切開後のSSCを推進している。ベトナムでも国家戦略として2014年からSSCの実践が展開され、2021年には新生児1万6927人に関して、SSC導入前後の健康状態を比較した研究結果が報告された(図表1)3)。この研究によって、SSCの導入後は導入前に比べて、NICU(新生児集中治療室)への入院が回避され、低体温症や敗血症が減少し、入院中の母乳育児が促進されたことが明らかになった(p<0.001)。
聖路加国際大学では、提携校であるタンザニア共和国のムヒンビリ大学と協働で、帝王切開後のSSCの推進に取り組んでいる。以前に帝王切開の経験があり、予定帝王切開後に初めてSSCを経験した母親17人にインタビューを行い、分娩に対する満足度を(5件法:「非常に満足」から「非常に不満」)で尋ねた。その結果、29%の母親が前回の分娩に「非常に不満」であると回答し、「非常に満足」または「満足」と回答した母親は65%であった。これに対し、SSCを実践した今回の分娩については、全員が「非常に満足」または「満足」と回答した。その理由として、「(子どもの体温や心拍を直に感じて)親密な親子の関係と愛を感じた」「(術後)おなかを縫われているときでさえ気分がよく、赤ちゃんが胸の上にいることで痛みも軽く感じられた」などの回答があった4)。
このようにSSCのさまざまな効果が示されているものの実践が阻まれる現状がある。その要因には、知識不足から現状のケアを変更することに抵抗を感じること、実施方法について医療チーム内の協力やコミュニケーションが不足していること、手術室の設計上の問題で実施ができないこと、新生児の蘇生・計測を理由に必ず母子分離とするルールが決められていることなど、医療側の課題も明らかになっている。帝王切開後のSSCのさらなる普及に向けて、科学的根拠の現場への啓発だけでなく、各施設のニーズに応じて実装を推進していくことが必要とされる。
(文責:福冨 理佳)

参考文献

  1. Moore E. R., Bergman N., Anderson G. C.,et al.:Early skin-to-skin contact for mothers and their healthy newborn infants,Cochrane Database of Systematic Reviews, 11(11),CD003519,2016.
  2. WHO:Caesarean section rates continue to rise, amid growing inequalities in access,2021.(https://www.who.int/news/item/16-06-2021-caesarean-section-rates-continue-to-rise-amid-growing-inequalities-in-access)[2022.1.26確認]
  3. Tran HT, Murray JCS, Sobel HL, et al.:Early essential newborn care is associated with improved newborn outcomes following caesarean section births in a tertiary hospital in Da Nang, Vietnam: a pre/post-intervention study,BMJ Open Quality,10(3), e001089,2021.
  4. Igarashi Y, Fukutomi R, Mwilike B,et al.:Perceptions of mothers who experienced early skin-to-skin contact after repeat cesarean section in Tanzania: Pilot implementation,International Journal of Africa Nursing Sciences, 15, 100337,2021.

★ 日本ではSSCをカンガルーケアと呼ぶことがあるが、世界的にカンガルーケアとは早産児や低出生体重児に対して継続的にSSCを行う主に生理学的安定を目的とするケアを意味する

看護 2022年1月号 第74巻 第1号

インドネシアの医療系教員へのTeam Based Learningの導入

WHOコラボレーティングセンターの使命である3つの委託事項として、妊娠・出産・新生児ケアの質の向上を推進する看護師・助産師リーダーの育成に関する研究を行っている。筆者は2021年度、「インドネシアの医療系教員へのTeam Based Learning(以下:TBL)の導入」に向けて取り組んでいる。
TBLとは、チーム基盤型学習法と呼ばれ、1人の教員が100~200人単位の学生を対象とした授業の際に、少人数チームをつくり、授業を展開していく教授方法であり、看護の分野など医療系の専門的教育に急速に導入されつつある。看護学部生を対象としたTBLの有効性に関する12件の研究を対象としたシステマティックレビュー1)では、学習成果の向上、コミュニケーション能力の向上、学生の自己学習に有効であることが示されている。一方で、問題解決能力や批判的思考能力については、TBLが他の教授法と比べて有効であるかどうか、十分なエビデンスがないと報告されている。また、看護教育におけるTBLの教授方法の要素に関するスコーピングレビュー★2)では、予習、個人で行うテスト、チームで行うテストはよく行われているが、この他の要素にはばらつきがあるのが現状だ。
教員側のTBLに関する受け止めについては、看護学生の授業にTBLを導入したプロセスに関するインタビュー報告がある3)。それによると、最初は、授業日までに教材作成時間として約60日を費やしたが、12日程度へと徐々に短縮する傾向にあり、TBLの導入については肯定的だったと示されている。
コロナ禍において、教育媒体もICTを活用したものが増えつつあるが、TBLにおいてもネットワークへの接続に問題がなければ、実施できるとの報告がある4)。インドネシアでは、すべてオンライン授業に移行している現状があり、オンラインでも対面においてもTBLを導入できる環境が整っている。また、オンラインでのTBLのほうが簡便であり、教員だけでなく、学生の満足度が高かったとの報告もある5)。
インドネシアの医療系大学において、近いうちにTBLを導入したいとの要望があるため、本取り組みでは、医療系教員に向けて段階的にセミナーを行っていく予定である。2021年度はTBLの知識や概要に関するオンデマンドセミナー、2022年度は実践に使える授業展開の演習を含んだオンラインセミナー、または対面セミナー、2023年度はTBLの導入の際のフォローアップという、3年計画である。このため、2021年11月~12月にTBLに関するオンデマンドセミナーを行い、医療系教員のTBL導入への実行可能性を探索したいと考えている。                   
(文責:宍戸 恵理)

引用文献
1) Alberti S, Motta P, Ferri P, et al.:The effectiveness of team-based learning in nursing education: A systematic review. Nurse Educ Today, 97,p.104721,2021.
2) Considine J, Berry D, Allen J, et al.:Specific Elements of Team-Based Learning Used in Nursing Education: A Scoping Review. Nurse Educ,46(5),p.E84-E89,2021.
3) Morris J.:Implementation of a team-based learning course: Work required and perceptions of the teaching team. Nurse Educ Today,46,p.146-150,2016.
4) 三木洋一郎:医療職専門教育のアクティブ・ラーニングを充実するために-医学教育の取り組みから Moodleとタブレット端末を利用したTBL授業の実践(総説).薬学教育,3,p.69-74,2019.
5) Malik AS, Malik RH.:Twelve tips for conducting team-based learning session online in synchronous setting. Med Teach,9,p.1-8,2021.

★ 既存の知見を網羅的に概観および整理し、まだ研究されていない範囲を特定することを目的とする方法

看護 2021年11月号 第73巻 第13号

WPRO青年期の健康を促進するプログラムにおけるステークホルダー協議会への参加

青年期の健康課題には、無防備な性行為による若年妊娠・出産や性感染症、自傷行為を含むメンタルヘルスの問題、虐待やDV等の暴力による受傷、喫煙や飲酒、肥満がある。これまでにさまざまな地域が青年期の健康問題に取り組んできたが、未だに多くの課題が残っている。WHOは、他の国連機関(UNFPA、UNICEF、UN Women、UNAIDS、世界銀行)や、“妊産婦及び乳幼児の健康を守るためのパートナーシップ(PMNCH)”★1と協力し、「青年期のwell being・イニシアチブ」を主導している。

14カ国、55人がオンラインで協議会に参加

2021年8月19日、20日に、WHOの西太平洋地域事務局(WPRO)主催で、青年期の健康を促進するプログラムにおけるステークホルダー協議会をオンラインで実施。14カ国★2から55人が参加した。参加者は、国レベルで活動する保健省の高官(青年期の健康に関するプログラムや政策を担当する者)、関連省庁の高官(青年期の教育・スポーツや、社会的・文化的支援、およびサービスに関するプログラムや政策を担当する者)、政府機関または政府のパートナー機関の実務者(できればサブナショナル・レベルで活動し、デジタル・テクノロジーに関する政策を含む、青年期の健康に関するプログラムの実施などに携わっている者)等である。筆者もWPROのWHOコラボレーティングセンターより、オブサーバー兼ファシリテーターとして参加した。
プログラムの目的は、①青年期の健康への投資に関する意思決定に影響を与える要因を理解すること、②青年期の健康を向上させる政策やプログラムを実施しているパートナーの経験と影響を共有すること、③(国レベルやさまざまな状況下における)青年期の健康を促進するためのエビデンスに基づく政策とプログラムを特定することについて、ステークホルダーから幅広い合意を得ることとした。

2日間で行われたディスカッションの概略

今回初となる地域事務局における協議は、2023年に予定されている「デジタル時代の青年期の健康に関する世界サミット」に向けた準備の一環となる。
1日目は参加者やプログラムの紹介のほか、青年期の健康における世界的概観(青年期の健康における優先順位・イニシアチブ)、政策やプログラムにおける課題(ブレイクアウトセッション★3にて)、2021年から2030年までの青年期の健康のためのトップ3の優先事項、自国における青年期の健康を支援するための重要な政策やプログラム、サービスは何かを議論した。
2日目は、1日目のディスカッションについてのプレゼンテーションと、‘How’に焦点を当てたグループワークを実施し、2023年までと2026年までに、青年期の健康促進のために取るべき行動について議論。考慮する点として、つながり、ポジティブな価値観、社会への貢献、安全性と協力的な環境、学習、能力、教育、技能、雇用可能性、レジリエンスが挙げられた。
筆者が参加したグループでは、共通の優先課題にメンタルヘルス、リプロダクティブヘルス、NCD(非感染性疾患)対策が挙がった。また、青年期の健康に関する政策・戦略を実施するために、垂直方向(国からコミュニティレベル)と水平方向(省庁間)のガバナンスシステムを構築しているが、政府全体でのアプローチ実現のためには、関連するすべてのステークホルダーの調整メカニズムの特定が必要とされた。若者の参加を促すメカニズムとしては、政策議論への参加、2023年に行われる予定の国連総会サミットを通じた若者の開発アジェンダの統合、委員会/タスクフォースへの参加などがある一方、参加を阻む要因として、パンデミック対応や社会的スティグマが挙げられた。

2日間にわたり、WPRO地域の国々と話し合う機会を持つことができたが、青年期の健康問題に関する政策は、縦割りの意思決定や予算割り当てが多く、どのように調整・実施していくかが課題である。
(文責:大田 えりか)。
★1 The Partnership for Maternal, Newborn and Child Health ★2 オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、中国、ミクロネシア、日本、ラオス、マレーシア、モンゴル、ニュージーランド、ニウエ、フィリピン、シンガポール、バヌアツ
★3 大人数が参加するオンライン上でのミーティング時に、少人数に分かれて行うグループミーティング

看護 2021年9月号 第73巻 第11号

オーストラリアに世界初のアスベスト関連疾患撲滅WHOコラボレーティングセンター開設

アスベストの危険性とわが国での取り扱い

アスベストは、耐熱性や不燃性などの優れた特性から、多くの建材や工業用品に用いられている。しかしながら、吸引すると数十年後に肺がんや中皮腫などの悪性疾患を引き起こすため、多くの国で使用が規制されている。WHOによれば、アスベストに暴露する人は、年間1億2500万人に上る1)。WHOは、世界労働機関(International Labour Organization: ILO)と共同で、アスベスト関連疾患の撲滅を呼びかけている2)。
2012年にアスベストの使用を原則全面禁止したわが国でも、昨年末にアスベストが混入した珪藻土マットが市場に出回り、回収の騒ぎとなった。壊したり、削ったりすると、飛散したアスベストを吸引する恐れがある。アスベスト製品を見つけた場合は、壊さずにビニール袋などに密封し、一般ごみには出さずに、市町村に廃棄法を問い合わせ、適正に処理することが望ましい。アスベスト製品の破片やほこりに対しては、アスベストが飛散するので、帚(ほうき)や掃除機を使用してはならない。

アスベスト関連疾患撲滅WHOコラボレーティングセンター開設の経緯とその使命

2021年1月、日本が所属する西太平洋地域(Western Pacific Region)のオーストラリアに、世界初のアスベスト関連疾患撲滅を専門とする、WHOコラボレーティングセンターが開設された。オーストラリアは世界有数のアスベスト鉱山を有し、人口当たりのアスベスト関連疾患患者が最も多い国の1つである。
2009年に開設されたアスベスト関連疾患研究所(Asbestos Diseases Research Institute:ADRI、高橋謙所長)では、これまでアスベスト関連疾患に関する基礎研究や臨床研究を実施してきた。そのADRI内に、WHOコラボレーティングセンターを開設したのである。
同センターとしての使命であるTerms of Referenceには、「WHOが実施するアスベスト疾患撲滅キャンペーンの支援」と「WHOが援助する中低所得国におけるアスベスト疾患撲滅の支援」を掲げている。

聖路加国際大学とのこれまでの協働

筆者は、ADRIが2019年にWHO、ILO、国連開発計画(UNDP)らと共同で開催した、途上国におけるアスベスト関連疾患撲滅プログラムに参加した。アスベスト市場は、アスベストへの法規制を行った先進国を諦め、そのターゲットを法規制の未熟な途上国へと移している。そのため、途上国においてもアスベスト関連疾患が発生しているからである。
2020年以降はCOVID-19流行によって開催できないプログラムに代わり、途上国向けアスベスト関連疾患撲滅のためのToolkitの開発を行った。Toolkitでは、アスベスト関連疾患の診断、治療、ケアについてエビデンスを用いて詳しく述べるだけでなく、疾患を引き起こす元凶であるアスベストの危険性と長期的視野から見た経済的な損失についても言及。アスベストの規制と暴露予防を呼びかけている。社会的資源の少ない途上国でこそ、「使うのは容易だが廃棄が難しく、高額な治療費がかかる悪性疾患を引き起こす有害物質」は使わないほうがよいからである。聖路加国際大学とADRIのWHOコラボレーティングセンターは、今後も世界のアスベスト関連疾患撲滅のために協働する予定である。
(文責:長松 康子)

引用文献
1)WHO:Asbestos: elimination of asbestos-related diseases.(https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/asbestos-elimination-of-asbestos-related-diseases)[2021.7.8確認]
2)ILO,WHO:Outline for the Development of National Programmes for Elimination of Asbestos-Related Diseases.(https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---ed_protect/---protrav/---safework/documents/publication/wcms_108555.pdf )[2021.7.14確認]

看護 2021年7月号 第73巻 第9号

Nursing Now キャンペーンからNursing Now Challengeへ

Nursing Nowキャンペーンの展開

“Nursing Now”は、人々の看護職への関心を深めると同時に、看護職の地位の向上を目的として、2018年から世界保健機関(WHO)と国際看護師協会(ICN)の連携により展開されてきた世界的キャンペーンである。これまでに126カ国、700以上の団体(2021年5月現在)が賛同。わが国でも日本看護協会を筆頭に、本学も1後援団体として、ともに取り組んできた。
 Nursing Nowの発案者である英国の議員連盟は、看護の発展は、健康・経済・ジェンダー平等への投資であるとともに、SDGsの17の目標のうち、「すべての人に健康と福祉を(目標3)」「ジェンダー平等を実現しよう(目標5)」「働きがいも経済成長も(目標8)」の3つに貢献するトリプル・インパクトとなるとしている。Nursing Nowは、看護への投資は保健医療分野で最も価値があり、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの実現のために不可欠であると強調している1)。

新たにNursing Now Challenge へ

2020年はナイチンゲール生誕200年の節目にあたることから、WHOが「看護師・助産師の国際年」と定め、看護の現状を報告する「世界の看護(State of the World’s Nursing)」を発表した2)。WHOはこの報告書の中で、人々のプライマリヘルスを保障する保健医療分野を担う要は看護職であることについて言及している。
同時に2020年は、Nursing Nowの一環として、35歳以下の若手看護職に対しリーダーシップの開発・政策に関与する力の育成を行うことを推奨する“Nightingale Challenge(ナイチンゲール・チャレンジ)”の展開が開始された年でもある。ナイチンゲール・チャレンジは、看護職自身が能力を最大限に活用して働けるようにするために、保健医療分野における看護の役割・業務分担を決定していく影響力のあるリーダーを育成することを主な目的とする3)。
Nursing Nowキャンペーンは2021年5月の終了を予定しているが、ナイチンゲール・チャレンジが新たに“Nursing Now Challenge”となり、2022年までに、150カ国以上の10万人の看護職にリーダーシップ教育を遂行することをめざす1)。わが国においても、2021年1月に、日本看護協会と笹川保健財団主催★1でオンライン開催されたNursing Now フォーラム・イン・ジャパンにおいて、「Nursing Now ニッポン宣言」が明示され、今後も看護職が持つ力をより積極的に活用すべきだという認識の下、わが国でも一丸となって継続して取り組んでいくことが宣言された4)。

本学の果たす役割

本学はWHOプライマリーヘルスケア看護開発協力センターとして、看護研究によるエビデンスの集積と成果の共有、未来を担う看護師の育成に基礎教育、さらには高度実践看護師教育課程を通してNursing Nowに貢献できると考える。そしてNursing Now Challengeに向けて、若手看護職のリーダーシップの開発と政策に関与する力の育成に向けて定期的なトレーニングやセミナー、WHOへのインターン等派遣、また系統的な育成プログラムの構築の推進をめざす。
(文責:福冨 理佳)
★1 企画協力:Nursing Nowキャンペーン実行委員会(看護系30団体、本学含む)

参考文献

1)Nursing now 公式HP -Nightingale Challenge.
https://www.nursingnow.org/nightingale/) 
2)WHO:State of the world’s nursing 2020 report.
https://www.who.int/publications/i/item/9789240007017
3)日本看護協会:Nursing Nowキャンペーン -ナイチンゲール・チャレンジ.
https://www.nurse.or.jp/nursing/practice/nursing_now/index.html#ng) 
4)日本看護協会:「看護の日・看護週間」制定30周年・ナイチンゲール生誕200周年記念イベント報告書,2021
https://www.nurse.or.jp/nursing/practice/nursing_now/nncj/assets/pdf/report.pdf

看護 2021年5月号 第73巻 第6号

聖路加国際大学のWHOプライマリーヘルスケア看護開発協力センターが開設されてから2020年で30周年となった。本稿では、近年の活動について述べたい。

WHOガイドラインへの貢献

WHOは、開発途上国を含むすべての国々に向けた保健政策のガイドラインを開発している。WHOガイドラインに学術的根拠となる研究成果を提供することは、WHO協力センターにとって重要な役割となる。本学においては、亀井智子らによる高齢者の転倒予防教育活動の評価に関する論文が、WHOより2018年に出版された「住居と健康に関するガイドライン」に、下田佳奈らのタンザニアの助産師による緊急搬送に関する論文が、WHOより2019年に出版された「低中所得国におけるプライマリケアから二次医療施設への搬送強化戦略」に引用された。また、大田(筆者)らの論文が、WHOとUNICEFの母乳のガイドラインや、WHO妊婦健診のガイドライン、2019年のKey fact Maternal mortalityに引用された。また2020年と2021年にビタミンDのサプリメントとマルチビタミンサプリメントに関する推奨が改訂され、筆者がガイドライン作成グループの一員として改訂に参画した。

WHOとの共同研究、セミナーの共同開催

2017年には、WPRO(WHO西太平洋地域事務局)から矢島綾氏、石川尚子氏、高島義裕氏を招聘し、疾病の根絶・制圧と日本の貢献セミナーを実施し、2017年、2018年は、WHO本部から梶原麻喜氏を招聘し、WHOの機能とIT戦略および患者安全とPCCについて講演していただいた。2019年は、WHO本部から進藤奈邦子氏を招聘し、女性が変えるグローバルヘルスと日本についてのセミナーを実施した。2019年よりWHO本部化学物質チーム、WHOフィリピン、WHOフィジーと共同でアスベスト関連疾患教育プログラム(長松康子担当)などが行われた。
WHO本部およびWPROからの共同研究実施依頼があり、本学国際看護学教室(大田担当)にて系統的レビューを実施した。WPROの顧みられない熱帯病(NTD)部門の矢島綾氏と日本住血吸虫症とメコン住血吸虫に関する診断精度のレビューを実施し、2021年2月にPLOS Neglected Tropical Diseasesに論文が受理された。
WHO本部の依頼で始まった死産を予防する効果のある介入研究をまとめたコクランオーバービューレビューは、2020年12月に出版された。

Nursing Nowキャンペーンへの賛同

2019年6月からは、Nursing Nowキャンペーンへ賛同している。Nursing Nowは、看護職が持つ可能性を最大限に発揮し、健康課題に積極的に取り組み、人々の健康の向上に貢献するための行動を支援するためのキャンペーンである(http://www.nursingnow.org/)。イギリスのグローバルヘルスに関する議員連盟は、世界各国での聞き取り調査、レビューに基づき、「トリプル・インパクト—看護の開発が健康を改善し、男女平等を促進し、経済成長をサポートする」報告書を公開している。看護職の数を増やし、看護を発展させることで「人々の健康の改善」「男女平等の促進」「経済発展」という広範な3つの影響をもたらすことを報告している。これらは、国連の掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の一部であり、世界で取り組むべき課題でもある。
2020年4月に、WPROから第8期目となる(2020-2024)のWHOCCの付託条項が更新された。WHOCCの活動のおかげで、国内外の連携組織や国際機関と交流することができ、共同研究やセミナーの合同開催、大学院生や教員をWHOにインターン等として派遣する人材育成の機会も増えている。今後も、WHO本部や各センターとつながりを持ちながら、よりWPRO加盟国と連携、協働し、看護教育・実践・研究の発展に貢献していきたい。
(文責:大田 えりか)