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2023年度学位授与式 看護学研究科長 祝辞(2024年3月8日)

看護学研究科長 麻原 きよみ

少し日差しが濃くなり、時折春の息吹が感じられるこの頃、私の好きな卒業の門出の時です。
修士課程修了生62名、博士課程修了生13名の皆さん、ご修了おめでとうございます。
コロナ感染症が拡大する中で、データ収集や実習等に大きな影響があり、ここまでの道のりは簡単なものではなかったと思います。しかし皆さんは様々な困難を耐え抜き、やり切った。誇るべきことだと思います。
私は、誰もが皆さんのように学位を手にすることは難しいと考えています。「何が何でもやり抜く」という強い意志と、「もう一歩踏ん張れるか」、それが論文を出せるか、学位を手にできるかの境目だと感じています。このことが皆さんの今後の研究や実践の原動力、そして一人の人間として自律して力強く生きていく力になると信じています。
この3月、私も皆さんと同様に聖ルカから旅立ちます。次の勤務先へと研究室にある山のような文献や資料を整理しました。読んだ文献には、複数の色の下線が引かれ、疑問に思ったこと、浮かんだアイディアがペンで走り書きしてあります。その時、研究を行っていた自分の姿をあたかも映像を見るように想起していることに気づきました。そのほとんどが新しい発見に歓喜したり、論文採択に喜んでいるというより、文献を読むことに没頭し、ただ虚空の一点を見つめ考えに耽る姿です。当時の私は、それぞれの研究に、きっと真剣に向き合っていたのだと思います。文献に書かれたメモの一つ一つにその瞬間が思い出されます。今思えば、最終的な成果物としての論文というより、このような生み出す苦しみのプロセスにこそ研究の神髄があるのだと思います。
同様に、アウトカムとしての人々の健康やQOLをめざすのはもちろんですが、対象となる人々のために試行錯誤しながら取り組み、よりよいケアを生み出す、そのプロセスそのものが看護の神髄だと感じます。
ですから、このような研究や看護に向き合う姿勢が研究者や高度実践者のアイデンティティを形成し、生き方になるように思うのです。
世界では耐えがたい紛争や災害が起きています。人々のためにある皆さんには、研究においても実践においても、それに答えがないように思えても、困難や疑問に向き合い、何が原因なのか、どうしたらよいのか、考えることをあきらめず、考え続けてほしいと思います。信念と勇気をもって歩んでください。
皆さんの未来が、皆さんにとって納得できる輝かしいものでありますように、心よりお祈り申し上げます。本日は、本当におめでとうございます。