WHOCCWHO Collaborating Center for Nursing Development in Primary Health Care

WHO News

看護 2021年3月号 第73巻 第3号

在日外国人向け新型コロナウイルスオンライン勉強会の実施

 新型コロナウイルスの世界的流行は、人々の暮らしに大きな影響を与えた。ウイルスから身を守り、他者に感染させないようにするためには、国民1人ひとりが新型コロナウイルスに関する正しい知識や関連する医療サービスについて情報を有する必要がある。日本語が堪能でない外国人にとって、日本でコロナに関する情報を入手するのは容易でないものと予想された。
 今回、在日外国人団体より、新型コロナウイルスに関する勉強会を開催してほしいとの要望があったことから、あらかじめ外国人より質問を受けて、外国人のニーズに合った勉強会を、WHO看護開発協力センターの取り組みの一環として開催したので報告する。

在日外国人を取り巻く環境

 在日外国人の数は年々増加傾向にあり、法務省の統計によれば、2019年には約282万人と過去最高となっている。在日外国人にとって、日本語という言語障壁は、生活上の困難を生じるだけでなく、保健サービスへのアクセスを阻害する要因となる。受診時に症状を的確に医療従事者に伝えることができない、医療従事者の話す内容を理解できない、受診したくても外国語が通じる医療機関が少ないなどの問題がつきまとう。

在日外国人の新型コロナウイルスに関する情報ニーズ

 在日外国人は、外国人ネットワークや日本人の家族・友人から新型コロナウイルス感染症や感染予防策について一定の情報を得ていた。しかし、症状出現時に検査を受けられる基準や、居住地ごとに異なる相談窓口については理解が不十分で不安を抱えていた。また、新型コロナウイルス感染予防における生活上の些細な疑問を医療従事者に聞きたいというニーズを有していた。

在日外国人向け勉強会の内容

 勉強会は、オンラインで実施し、聖路加国際大学国際看護学の長松康子准教授と沖縄県立八重山病院の今村昌幹医師と筆者で講義を行った。在日外国人からの質問や要望を反映した勉強会の内容は、①新型コロナウイルスの症状と感染予防策、②事例を使った症状出現時の対応シミュレーションと自治体の相談窓口情報、③すぐに受診すべき危険な兆候、④受診時に向けたお薬手帳や既往歴などの準備、⑤自宅療養時の家族への感染予防方法、⑥質疑応答である。
 講義に先立ち、筆者らは、在日外国人の住民が多い自治体のホームページに実際にアクセスして相談窓口を探し、担当者に実施サービスの内容を確認した。その結果、新型コロナウイルスの検査情報は、複数のページを経ないと到達できないことが多く、耳慣れない専門用語が多用されていたり、ホームページの内容と実施されているサービスが異なったりと、利用しにくい自治体が目立った。一方で、情報に容易にアクセスでき、内容がシンプルでわかりやすく、多言語で、夜間も相談を受け付けている自治体もあった。
 勉強会には50人以上の参加者があった。健康に関しての些細な疑問を医療従事者に質問できる機会が在日外国人には限られていることから、多くの質問がなされた。「服についたウイルスから感染するか」「靴は毎日消毒したほうがよいのか」「布マスクに感染予防効果があるのか」「アルコール消毒が手に入らないが、どうしたらよいのか」「フェイスシールドをしたほうがよいのか」「ドアノブは1日何回消毒したほうがよいのか」「感染して回復した人が差別を受けないようにするにはどうしたらよいか」などの質問に対して、医師が丁寧に英語で回答した。
 勉強会が好評であったことから、第2回も実施し、その内容を英語、中国語、インドネシア語、トルコ語で公開した。
(文責:松井 香保里)

看護 2021年1月号 第73巻 第1号

COVID-19影響下の結核の動向

 毎年140万人が死亡する結核1)は、世界の主要な死亡原因のトップ10に入る疾患であり、持続可能な開発目標(SDGs)において「流行の終焉(End epidemics)」をめざす感染症の1つである。2014年の世界保健総会で採択された「The End TB Strategy」は、結核による死亡者数と罹患率を2015年から2020年までにそれぞれ35%・20%減少させ、最終的には2030年までにそれぞれ90%・80%低減させることを目標として掲げた。しかし、2019年までの目標達成状況を見ると、死亡者数は14%、罹患率は9%減少したものの、2020年までの目標に半分も達成していない2)。

滞る結核の治療と予防的介入

 COVID-19の世界的流行によって、結核の治療・予防的介入を必要とする人々へのサービス提供が滞る事態が発生している。保健医療サービスがひっ迫し、医療における人材・機器・資源、および財源が見直され、結核に分配される資源が減少したためである。その結果、2020年の結核患者の発見数および届出数は減少した2)。特に、結核高蔓延国であるインド(図表1)・インドネシア・フィリピン・シエラレオネ・南アフリカでの減少は顕著である2)。日本においても、2020年1月から4月の新登録結核患者数が例年と比して大きく減少した3)。これは、多くの国で結核患者への治療提供を担う医療施設の縮小による接触者調査と接触者への予防的介入の中断に加え、潜在的結核患者が医療機関の利用を控えたためと考えられている2, 3)。

COVID-19流行下の結核対策に向けて

 収束の兆しの見えないCOVID-19の世界的流行は、今後の世界の結核の動向に大きな影響を与えるものと予測されている。2020年の結核死亡者数は20~40万人増加し、2015年あるいは2012年の水準まで逆戻りするものと見込まれる2)。また、3カ月間のロックダウンが起こり、その後の結核関連サービスの復旧に10カ月を要した場合、2020~2025年の結核による死亡者数は、COVID-19の影響がなかった場合に比べ、140万人増加すると予測されている4)。COVID-19流行による経済の悪化によって結核罹患率が上昇し、2020~2025年の間に新たな結核患者が630万人増加する可能性があるとの予測もある4)。
 WHOは、COVID-19流行下での結核対策推進に必要とされる取り組みを以下のように示している2)。
・National TB Programmes (NTPs)で蓄積された知識と経験のCOVID-19対応(迅速な検査と接触者同定)への活用
・デジタル技術を最大限に活用した結核患者のケアと支援の充実
・結核治療中の患者の保健医療施設の訪問の最小化
・混雑した場所や医療施設での結核とCOVID-19の感染防止に向けた咳エチケットおよび患者トリアージの徹底
・接触者への予防的介入の維持および拡大(COVID-19の接触者同定のための疫学調査との相乗効果も期待される)
・結核とCOVID-19の同時検査の実施
・結核とCOVID-19両者への対応に向けたアクションプランの作成と予算化
 COVID-19の流行は、世界の結核対策の進展を停滞させたばかりでなく、これまでの結核対策の成果を著しく後退させる見込みである。COVID-19と共存する新たな結核対策が求められている。WHOをはじめとするさまざまな国際機関、各国政府、地域・市民社会が取り組みを進めている。
(文責:江川 優子)

引用文献(2020年11月9日確認) 
11)WHOホームページ:Fact sheets:Tuberculosis.(https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/tuberculosis) 2)Global Tuberculosis Report 2020.(https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/336069/9789240013131-eng.pdf?ua=1) 3)内村和広:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が結核患者登録に及ぼす影響について—2019年と2020年の1月から4月の月報登録数の比較—, 結核・肺疾患予防のための複十字, 393, p.3-4, 2020. 4)Stop TB Partnership in collaboration with Imperial College, Avenir Health,Johns Hopkins University and USAID:The potential impact of the COVID-19 response on tuberculosis in high-burden countries: a modelling analysis, Geneva, 2020. (http://stoptb.org/assets/documents/news/Modeling%20Report_1%20May%202020_FINAL.pdf).

看護 2020年11月号 第72巻 第13号

新型コロナウイルス流行下における子どもへの影響

新型コロナウイルス(以下:COVID-19)の世界的流行の中、国際連合は2020年4月に発表したPolicy Belief1)の中で、COVID-19のパンデミックとその対策が及ぼす社会経済状況の変化が子どもへ及ぼす影響について警鐘を鳴らし、各国政府へ子どもたちへの支援を求めた。

教育・貧困・虐待等、子どもたちを取り巻く危機

1989年に国連総会で採択された「児童の権利に関する条約」は、子どもを権利を持つ主体と位置づけ、生きる権利・育つ権利・守られる権利・参加する権利の実現を提唱した。COVID-19流行下においては、多くの子どもは幸いにも、COVID-19による重篤な症状から免れている。しかし、COVID-19流行による予防接種推奨の中断により、ポリオや麻疹など通常のワクチン接種が困難となったことから、子どもはほかの感染症の脅威にさらされている。またパンデミックにより、世界のほぼすべての子どもが学校に通えない状況が生じている。2020年9月現在、一部の学校では休校の解除や遠隔学習が開始されているが、すべての子どもが遠隔学習を利用できる環境にあるわけではない。電気が通っていない、あるいはインターネットサービスが低速・高価な国に住む子どもたちは教育を受ける権利が脅かされている。また、COVID-19流行に伴う社会経済状況の変化や家族の罹患による世帯収入の減少が生む貧困は、生活に不可欠な医療費や食費の削減を余儀なくし、休校によって給食を頼りにしていた子どもたちが必要な栄養を摂取できないことから、子どもの栄養不良・発育の阻害が懸念されている。さらには、ロックダウン実施国においては、家庭内暴力や虐待の被害者、その目撃者になる懸念までも生じている2)。
わが国においても、2020年3月に全国小中高の一斉休校要請が政府より出されたが、休校が解除されてきたことから、子どもの生活の場である学校における感染予防対策の検討が重ねられている。そうでなくとも、未曾有の感染症流行は、子どもとその家族にさまざまな不安を与えた上、長期的な外出自粛に伴い子どもの心身へ影響を及ぼした。その上、感染リスクの恐れによる医療機関受診や乳幼児のワクチン接種を控える傾向、貧困世帯の家計のひっぱく、虐待や家庭内暴力、10代の予期せぬ妊娠に関する相談の増加など、日本の子どもたちも、世界各国と同様に被害を被っている。

入院児と、そのきょうだい支援の取り組み

COVID-19流行によって、さまざまな医療機関が家族の面会や外部からの人の出入りを制限したことで、入院児だけでなく、そのきょうだいも、我慢を余儀なくされた。本稿の締めくくりに、WHO 看護開発協力センターとしての、People-Centered Careの取り組みの一貫で聖路加国際大学小児看護学教室と聖路加国際病院小児病棟が協働した入院児のきょうだいへの支援の一例を紹介したい。COVID-19流行下でどのようにきょうだい支援を続けていくことができるか協議の上、一斉休校が開始された2020年4月から6月の週2回、午前中の約30分、きょうだいたちをZoom®でつなぐ「ひみつかいぎ」を開催した。これは、きょうだいたちが主役になれる居場所づくり、休校に対する生活習慣の維持、親の休息の確保を主目的として実施された。計35名のきょうだいが参加し、ゲームや遊びながら学べるプログラム等を楽しみ、参加した子どもの保護者からは、「毎回楽しみにしている」「満足しているからかお手伝いもしてくれて優しくなった」「生活にメリハリがついて自ら宿題をしている」「きょうだい同士でわかり合えることがあって楽しいみたい」などの感想が寄せられた。
今後、COVID-19流行下による中長期的な影響が子どもの心身へ現れるものと予測される。COVID-19の流行抑制は社会にとって重要な課題であるが、同時に子どもたちが健やかに発育していけるよう、個人、組織や国ができることに取り組んでいくことが今後の重要課題である。
(文責:福冨 理佳)

引用文献(2020年9月13日確認) 
1)United Nation.Policy Brief:The Impact of COVID-19 on children,2020.(https://unsdg.un.org/sites/default/files/2020-04/160420_Covid_Children_Policy_Brief.pdf)
2)UNICEF. LIVES UPENDED How COVID-19 threatens the futures of 600 million South Asian children,2020.(https://www.unicef.org/rosa/media/7946/file/UNICEF%20Upended%20Lives%20Report%20-%20June%202020.pdf%20.pdf)

看護 2020年9月号 第72巻 第11号

眼科医療等を提供する国際的非営利組織Unite For Sight®

 筆者は、2020年4月にUnite For Sight®が主催するGlobal Health and Innovation Conferenceに参加した。学会および学会主催者の取り組みが興味深く、その歴史から多くを学ぶことができた。

Unite For Sight®について

 Unite For Sight®は、眼科医療の提供、次世代のリーダーの育成、学会活動、グローバルヘルス大学の4つのグローバルヘルスプログラムを実施する非営利団体である(https://www.uniteforsight.org/)。1人の大学生、Jennifer Staple-Clark(Yale大学2003年卒業)のアイデアから2000年に設立され、現在もYale大学があるNew Havenのダウンタウンに本部を置く。彼女は、大学2年時、視覚障害に気づかず、失明する緑内障の患者を目の当たりにした。そして、眼科受診の啓発活動、健康保険の加入なしに眼科医の診察を受けられるプログラムの普及を目的に、Unite For Sight®を設立した。彼女は、当初、New Havenのダウンタウンの患者の眼科医療に対する障壁を取り除くための学生組織をめざしていたが、他大学にも適応できると考え、組織を拡大していった。
 2004年には、ガーナで国際的な医療提供プログラムを開始し、国際的な非営利組織となった。現在では、ガーナ、インド、ホンジュラスの現地の眼科クリニックとパートナーシップを築き、北米、アフリカ、アジアの290万人に眼科医療を提供している。彼女は、「多くの政府は、キラーディジーズとして知られているHIVやマラリアに焦点を当てており、目のケアを重大な問題として認識していない」とし、生活の質に対する失明の影響は過小評価されていると主張している。
 1人の大学生のアイデアは、今や世界中の視覚障害に悩む患者の生活の質の向上に寄与している。学部生であっても、現状の課題に気づき解決策を見つけ、多くの人を救うことができた。行動を起こしていく大切さを彼女から学ぶことができた。

UGlobal Health and Innovation Conferenceが開催

 Unite For Sight®は、Global Health and Innovation Conference(図表1)をYale大学で毎年開催している。学会の目的は、公衆衛生と国際開発を改善するために、分野を超えてアイデアと最適な実践の意見交換をすることである。学会には、米国すべての州と55カ国以上から2000人近くの医療従事者、政策立案者、社会起業家などさまざまな専門家や学生が参加し、分野を超えて学ぶ機会が提供されている。2020年は、COVID-19の影響でオンラインでの開催となり、4月4日、5日の2日間にわたり、160以上のパネル、口頭発表、ポスター発表が行われた(https://www.uniteforsight.org/conference/)。ウェブサイトとコンテンツは2021年3月まで閲覧できる(要参加費)。われわれもWHOプライマリーヘルスケア看護開発協力センターとしての専門性を生かし、世界の人々の健康の改善、増進のために、他職種と連携して活動していきたい。
(文責:大田 えりか)

看護 2020年7月号 第72巻 第9号

フィジーでアスベスト関連疾患撲滅に向けた 教育プログラムを実施

 2019年度は、WHO、ILO(国際労働機関)、UNEP(国際連合環境計画)などの国連機関と、アスベスト関連疾患研究所(オーストラリア)が中心となって、開発途上国対象の「アスベスト関連疾患撲滅のための教育プログラム」をフィリピンとフィジーで実施した。筆者は、看護ケア担当で参加し、フィリピンでのプログラムについては、本欄(2019年11月号)で報告した。今回はフィジーでのプログラムを報告する。

フィジーでアスベスト関連疾患対策を行う難しさ

 人口90万人弱で、観光を主産業とするフィジーは、日本と同じくWPROに属し、南太平洋の国々のリーダー的役割を果たしている。平均寿命は男性67.1歳、女性73.1歳で、結核などの感染症が制圧途上のところへきて、生活習慣病対策の需要が目下急増中である。公的医療機関での医療サービスは無料だが、医療従事者不足が問題となっている上、先進医療機器や専門医が少なく、受けられる医療サービスが限られる。このような状況のフィジーで、アスベスト関連疾患対策を行うのは容易ではない。
 フィジーにおいても悪性疾患は増加傾向にあり、男性では肝臓がんや前立腺がん、女性では子宮頸がんや乳がんが増加し、13歳の女児を対象にHPVワクチン接種が始まったところである。しかし、乳がんや子宮頸がんの無料スクリーニングは行われておらず、悪性疾患と診断されても、使用できる抗がん剤が限られている上、緩和ケア導入も進んでいない。主要な悪性疾患に対してさえ予防、診断、治療が十分に行われていない国で、見たこともない中皮腫やアスベスト性肺がん(診断方法がないので公式患者は0人である)の話をしても、興味を持ってもらうのは難しい。

プログラム参加者に疾患対策への興味をつなぐ

WHOフィジーが、保健省や国立病院から、政務官、医師、看護師、検査技師などを招待してプログラムを行ったのだが、希少がんなどの対策をする余裕はないというのが本音で、アスベストに対する興味も薄かった。しかし、すでに病院や学校、水道管に大量のアスベストが見つかっており、アスベスト関連疾患患者が現れるのは時間の問題である。そこで、呼吸困難を抱えるアスベスト性肺がん患者のビデオメッセージを紹介した。患者自身による語りには力強い説得力があり、国境を越えて医療従事者の共感を促すことができる。それでも「感染症や生活習慣病対策で手一杯。アスベストの病気などに取り組む余裕がない」と口をそろえるプログラム参加者には「感染症や生活習慣病対策で手一杯な上に、アスベスト関連の病気にも取り組まなくてはならなくなるから一緒に対策を考えませんか? そのときが来たら呼んでください」というお願いを、「人も金も物もない」という参加者には「アスベスト関連疾患の看護には高額なケアは必要ない上、他の悪性疾患にも汎用できます」というメッセージを伝えてきた。
 「自分たちにアスベストの病気のケアなんてできるわけがない」というかたくなな意見があったので、患者さんが息苦しくなったらどうするかというロールプレイを参加者にしてみてもらったところ、患者役の医師と援助者役の看護師は感情豊かに演じ、聴衆からは「背中をさすれ」「優しい言葉をかけろ」とさまざまな助言が飛び交った。「同じことをアスベストで苦しむ患者さんにしてあげたら、喜ぶと思います」と話すと、やっと興味を持ってもらえた。いつかフィジーの看護師とアスベスト関連疾患患者のケアを一緒にする機会があるよう願っている。

(文責:長松 康子)

看護 2020年5月号 第72巻 第6号

SDGs-新生児死亡率の引き下げをめざす世界的動向

 わが国の2018年の新生児死亡率は、出生1000対0.9(死亡数:約800)であり、世界的にも「赤ちゃんが最も安全に生まれる国」の1つとされている。一方、世界全体では同年250万の新生児が死亡しており、これは年間で毎日7000もの新生児の命が失われた換算となる。1990年以降の30年間で、世界の新生児死亡数は半減している。しかし、5歳未満の子どもの死亡数における新生児死亡の割合は、40%(1990年)から47%(2015年)へと負の上昇が見られている。特に子宮外環境への適応に向けて身体機能の著しい変化を要する時期にある新生児に対するなんらかの戦略が求められた。

到達目標の達成に必要なENC

 このような状況から、2015年に国連採択された持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)において、世界全体で取り組むべく、初めて新生児死亡率を一定(出生1000対12)まで引き下げる到達目標が掲げられ、その到達に向けて現在さまざまなアプローチが試されている。特に新生児死亡率が高いサブサハラアフリカや南アジアの各国において、その主要な死亡要因は、早産・低出生体重による出生、新生児仮死など出産に伴う合併症、新生児感染症、先天性疾患であると報告されている。しかし、これらの約3分の2は、妊娠・出産・産褥期を通してかかわる専門職の適切なケアの実践があれば回避可能な死であるとされており、世界保健機関(WHO)と国連児童基金(UNICEF)は、2014年に発表した共同声明(Every Newborn Action Plan)の中で、Essential Newborn Careの重要性を強調している。
 WHO西太平洋地域事務局では、声明に基づいてEarly Essential Newborn Care(EENC)という実践ガイドラインを作成し、西太平洋地域の新生児死亡率が高い各国で展開している。EENCとは、①出生後の適切な保温、②早期母子接触、③適切な臍帯ケア、④早期授乳・完全母乳育児の促進、⑤ビタミンKの投与(出血予防)やワクチン接種など予防的介入のルーチン化であり、以上のケアをすべての新生児へ提供する方針を示している。また、多くの開発途上国では、出生から24時間以内に分娩施設から帰宅する親子も少なくなく、新生児が必要なときに適切なケアを受けることなく自宅で死亡するケースも多いとされる。よって、新生児が発信する危機的サインに家族が気づけるような教育支援も行われている。
 最新の2018年の報告によると、共同声明の下、新生児死亡率引き下げを国家的な戦略として提示する世界の国が2年前から1.5倍増加し、各国はその実現に向けた予算獲得や医療保健システム構築、そして専門家の派遣要請など具体的なアクションへの移行に向かっているという。また、EENCの実装に向けて現場教育も進められる中、データの可視化のための現場を対象とした研究の推進が期待されている。

新生児ケア改善をめざしEENC普及に取り組む

聖路加国際大学は、WHO看護開発協力センターとして開発途上国の看護・助産教育の支援を担っている。以上の世界的動向を受けて、本センターでも2016年からインドネシアおよびタンザニアでのEENCの普及に取り組んでおり、タンザニア都市部にある国立病院では、現地の教育研究機関との共同で、分娩室と帝王切開を担う手術室を対象に、新生児ケアの改善をめざすEENCの実装研究を展開している(2019年3月号本欄に一部掲載)。SDGs到達を掲げる2030年に向けて、「赤ちゃんが最も安全に生まれる国」が誇るEENCの実践の紹介や現地との共同研究を通して、新生児死亡率の引き下げへの貢献をはかる看護・助産教育からのアプローチを続けている。
(文責:福冨 理佳)
参考 1) 厚生労働省:平成30年人口動態統計, 2018.
2) WHO & UNICEF:Every Newborn Action Plan country progress tracking report, 2015.
3) WHO & UNICEF:2018 Progress Report:Reaching Every Newborn National 2020 Milestones, 2018. 
4) WHO WPRO:Action plan for healthy newborn infants in the Western pacific Region (2014-2020),2014.
5) Horiuchi S., et al.:Early Essential Newborn Care VIDEO教材.(https://youtu.be/8zYERXMG6eE)