2023年度入学式 歓迎の挨拶 看護学研究科長(2023年4月1日)
看護学研究科長 麻原きよみ
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。大学院進学に向けて懸命に取り組んでこられたことと思います。その努力に敬意を表し、皆さんを心より歓迎いたします。
コロナウイルス感染症、ウクライナでの紛争、方や、WBCでの日本人選手の活躍など、今は同時期に世界レベルで様々なことが生じ、また急激に変化して、私たちの生活や心と身体を直撃します。今や「変化することが唯一不変」の時代です。大学院に入学された皆さんには、研究や高度実践において、変化に対応できる力と本質をとらえる力を身に着けてほしいと思います。
大学院では、自らの研究課題や実践での課題について、文献や資料を集め、研究手法や課題解決法を学び、いくつかの仮説を考えて、その中から結論を導き出します。これを推論と言いますが、推論には大前提から結論を導き出す「演繹」、個別・特殊な事例から一般的・普遍的な規則・法則を見出そうとする「帰納」があります。これに加えてアメリカの論理学者パースは、意外な事実や変則性の観察から出発して、それがなぜ起こったかを説明しうる仮説を導き出す推論として「アブダクション」を提唱しています。科学者が研究等を続ける中で「突然生じる閃き」から法則等を導き出すもので、未知の法則や理論、新しい概念を見出すもっとも強力な推論とされています。
例えば、ニュートンが木からリンゴが落ちるのを見て万有引力の法則を発見したことは有名な話です。しかし単純に木からリンゴが落ちたと捉えたのではなく、「リンゴはなぜいつも垂直に落ちるのか、なぜわきの方ではなく、いつも地球の中心に向かって落ちるのか」と疑問を持ったのです。これが彼の閃きであり、独創的な洞察力と創造力によるものです。そして、この事象への仮説として、「物質の中には引力があってそれが地球の中心に集中しているのではないか。一つの物質が他の物質を引き付けるならばその大きさの間に比例関係が成り立っているのではないか。地球がリンゴを引くようにリンゴも地球を引くのではないか」と考えたのです。
これは決して単なる思い付きの思考ではないのです。アブダクションには2段階あり、最初に科学者は自身の探索中の問題について、考えられ得る説明をいろいろ推測し熟考します。この段階で科学者の「閃き」が働くのです。その閃きから得られた仮説を検証して、最も確からしい説明を導き出すのです。
皆さんには、大学院において、自身の研究テーマや実践での課題について、ひらめきが生じるくらい検討し熟考して没頭すること、そして最適な仮説を得るために、仮説検証でき得る科学的知識・方法を身に着け、粘り強くやり抜く経験とその力を培ってほしいと願っています。
また、多角的な視点からアプローチしない限り本質を見出すことはできません。大学院では、専門外の学問領域や学問以外の体験にも挑戦して、感性に磨きをかけてほしいと思います。そして、多くの人とつながり、体験を共有してください。大学院での仲間や教員とのネットワークは皆さんの生涯の財産となります。
大学院の学びの扉は開かれました。どうぞ、思う存分学び、人と出会い、刺激ある大学院生活を楽しんでください。
本日は本当におめでとうございます。
I hope you’ll enjoy your school life, make friends, and live exciting school days to the fullest.
Congratulations!