事業計画
研究交流目標
1.アジア・アフリカの現場で希求されている助産人材の育成モデルの開発
本研究交流事業の前身では、3 年間(平成23-25 年度)のアジア・アフリカ学術基盤形成事業を通じ、タンザニア国内初の助産学修士課程の設立に成功した。設立前の教育セミナーを通じ、現地の助産師が、自らの知識・技術向上に対し高い意欲を持っているにも関わらず、学びの場が限られていることが判明した(Shimpuku et al., 2012; Shimpuku et al., 2013)。高い妊産婦死亡率、新生児死亡率減少の鍵を握る助産師・看護師の育成のための教育をタンザニアでの研究を基盤として、インドネシアに発展・展開し、自国で持続的にその育成が可能なモデルを開発することが、本研究交流の目標である。
2.国際保健人材の強化のエビデンスを示す助産研究拠点の形成
外務省は、2013 年5 月に国際保健を日本外交の重要課題と位置づけ、国際保健分野において日本人の果たす役割の拡大を戦略目標に掲げ、人材育成をその具体的施策の一つとしている。大学院において助産の教育研究を行う我が国の特徴は、臨床・教育・研究が連携・循環している点にある。本研究交流は、3 年間で基盤を形成した戦略をタンザニアからイ
ンドネシアに発展させるものであり、資格を得た後に生涯に渡って専門職教育という長期的視点を持った助産教育研究を日本型モデルとして世界に発信する拠点を形成する。
3.母子保健関連目標の達成に貢献する助産職のキャリア開発と評価
2015 年に期限を迎えるミレニアム開発目標(MDGs)のうち、母子保健関連目標は達成の遅れが指摘されている。特に妊産婦死亡、新生児死亡を減少させるには、周産期医療へのアクセスと質の改善が急務である。タンザニアでは約半数が未だ出産時に専門の技能を持つ分娩介助者(Skilled Birth Attendant:SBA)にアクセスできておらず、インドネシアでは、出産時のSBA へのアクセスにおける地域間や集団格差が問題である。その要因として医療の質の問題が指摘されている。医療者は膨大な数の患者対応に追われており、妊産婦は医療機関で満足にケアが提供されず、信頼関係が築けないことから、次回のアクセスを控えることが両国で報告されている(Agus, 2012; McMahon, 2014)。病院には出産中に重篤な状況に陥ってから搬送される場合が多く、多くの母児が遷延分娩、産後出血、新生児蘇生の遅延など、日本であれば救命の可能性のある状況で死に至っている。その要因として医療者不足、教育者不足ばかりが指摘されているが、助産職のキャリア開発に関する研究はほとんど行われておらず、国や地域毎に役割が異なる助産師の実践能力をグローカルに強化するしくみづくりが不可欠である。本研究交流では、母子保健分野の主な担い手である助産職への教育評価を、最終的に医療の受け手である女性と子どもの成果指標である妊産婦死亡、新生児死亡の減少として研究で示すことを目指すものである。
研究交流計画の概要
同研究・研究者交流
①共同研究:エビデンスに基づいたケアを促進する看護・助産教育のモデル化
1年目に、相手国がエビデンスに基づいたケアを提供するために必要な看護・助産教育に関するニーズ、特に改善の必要なスキル(新生児の蘇生法や妊産婦への健康教育、助産ケアの手技など)を明確にする共同調査を実施する。その結果を基に、タンザニアでは1 年目後半、インドネシアでは翌年に行う教育セミナーの内容を決定する。また、セミナー実施後の評価研究を行うことで、看護・助産教育による医療の改善を示し、持続すべき教育内容や方法をモデル化する。
②セミナー:相手国での教育セミナーと日本から世界への発信
1 年目後半にタンザニア、2 年目にはインドネシアにおいて、調査で明らかになった看護・助産教育ニーズに対応したセミナーを相手国で行い、教育を実施する。二国共通した課題(Evidence-Based Practice エビデンスに基づく実践、Humanized Childbirth Care 人間的な出産の促進など)に関しては、日本でセミナーを開催し、互いに学び合う機会を提供する。最終年度に、研究成果から今後の展望に対する共同声明を、助産研究拠点として日本から世界に発信する。
③研究者交流:グローバルな助産ケア改善に向けた拠点間の目的意識の共有
参加研究者の共同研究やセミナー開催時に参加研究者に加え、若手研究者や国際協働に貢献する意思のある大学院生(修士・博士)を同行させ、相手国研究者、学生との交流を図ることで、国際協働のベースとなる相手国との相互理解を深める。また、相手国側研究者を日本へ招聘し、日本の看護・助産教育や周産期医療の現場を視察や、妊産婦死亡、新生児死亡を予防するための環境や継続教育システムを学ぶ機会を提供する。こうした日本型モデルの学習により、看護・助産という専門職の役割や国の助産ケアの質を向上させる目的意識を共有し、拠点間の結束を強める。